March 20, 2005

用途とコストと ARMADA の値段

実は私、昨夜まで密かにオークションでねらっていたノート PC がありました。

そのノートの名は、COMPAQ ARMADA 6500 Ultra。

たぶん、この名前だけではそれなりに PC に詳しい人でも理解できないと思うので、もっと詳しく解説してみます。

digital HiNote Ultra 2000 という機種をご存じでしょうか。最上位モデルで MMX Pentium 266MHz の CPU・32MB の EDO メモリ・4GB のハード ディスクという、基本性能だけ見れば今さらどうしようもないノート PC なのですが、このマシンの本質は数値として現れない部分にあります。

その数値に表れないスペックとは、まず液晶。14.1 インチの TFT 液晶は 1024 x 768 ドットまで対応し、その美しさはユーザーも絶賛します。シリアル・パラレル・外部モニタ出力・赤外線と、各種 I/O も装備し、ボディも考えに考え抜かれたデザインと構造。そして何より驚異的なのが PC カード スロット。一見普通のスロットを 2 基搭載しているだけに見えますが、実は内蔵のモデムと LAN は隠しカバーつきの PC カードで搭載されており、それを含めれば合計 3 基のスロットを使えるのです。PC カード スロットを 3 つ備えるノートは、私も所有している Chandra2 以外には、これしか見たことがありません。

こんな無茶な構成ですから、当時は 100 万円 PC (誇張ではない) などと呼ばれました。そしてその後継機種として、HiNote Ultra 2000 のメーカーである DEC を買収後に COMPAQ が発売したのが、今回の ARMADA 6500 Ultra でした。今ではその COMPAQ も HP に吸収合併されて、ああ時代とは酷なものよ。

さて、その ARMADA 6500 Ultra。オークション終了 15 分前まで見ていても全く誰も入札する気配がない。それはそうだ、こんなマイナーな機種。HiNote Ultra 2000 は知っていても、COMPAQ ブランドとなってしまったこの機種を知っているユーザーは少ないのです。実際に私もウェブで見るまでは、後継機種が存在するのは知っていたけれども、型番までは知りませんでした。

今入札すれば、あのマニア垂涎の HiNote 後継機が高い確率で手にはいるかもしれない。しかも超破格で。

しかし、私はここでためらいました。

今回出品されている ARMADA の CPU は Pentium II 300MHz。これは、交換により 400MHz まで対応できることを確認しています。そしてさらにメモリも HiNote とは違い SDRAM ですから (たぶん)、増設も容易です。IDE も上限 8.4GB などという、前世紀の遺物のような制限はありません。つまり、まだまだ拡張すれば用途は (限定的ではあっても) あるはずなのです。

でも、入札するにはいまいち踏ん切りがつきません。

なぜか。その理由は、自分の用途と対コストにあると思います。

先日、私は ThinkPad を買いました。モデルは 240Z です。実はこれ、知人から譲っていただいたもので、その知人がこのマシンを手放した主な理由は本人曰く「グラフィック性能が低く動画がコマ落ちする」ことと「内蔵音源の音質が悪い」ことでした。そして私が求めるノート PC に必要な条件は「バッテリーの持続時間が長いこと」と「サイズは B5 以下」で「最低でも 500MHz 以上の CPU」と「できれば XGA」の液晶、さらに「キーボードが打ちにくいのは却下」でした。この条件を 240Z は満たし、さらに対コストも見合うと判断したので、私は購入しました。動画再生能力と音質は確かに低いかもしれませんが、私の用途では問題にならなかったのです (ディスク容量の少ないノートで動画はかさばるし、外で音楽を聴きたいなら手持ちの iPod、自宅なら USB 音源を増設すればいい)。

では ARMADA の場合はどうかというと、これが自分の求める用途にはまるで符合しないのです。前記の条件は「持ち歩くファースト PC」としての条件で、2 台目のノートが同じ仕様である必要はありません。しかしコストを考えると、このノートを買う気にはならなかったのです。まず CPU を前述の 400MHz にするためには専用のが必要で、これは入手困難で価格も Pentium II のくせに 1 万を遙かに越えます。グラフィックは AGP 接続で RAGE PRO 相当なので、それなりにゲームや動画も再生できるかもしれませんが、それに見合う容量にハード ディスクは交換せねばなりません。メモリも標準では心許ないので増設すべきでしょう。

こうして投資すると、結果的には私が 240Z を買った金額と遜色なくなってしまいます。そして私は、たかだか Pentium II 300MHz のマシンにそこまで手間とコストをかけようとは思えないのです。さらにそこまでしても、それを何に使ったらいいの? という疑問が残ります。

結局のところ、物は使ってナンボの世界。HiNote Ultra 2000 は PC 史に残る名機であり、その正統後継機である ARMADA 6500 Ultra が悪いものであるわけがありません。しかしどんなによい物であっても、用途がなければよい買い物にはならないのです。

以前私は、知人 (240 を譲っていただいた方とは別の方) から ThinkPad 535 を薦められたことがあるのですが、それに対する私の返事は「No」でした。これも理由は同じ。535 は小型軽量ながら堅牢なボディが、当時の IBM らしい完成度の高いマシンだと思います。しかし Chandra2 を持っている私にとって、同じようなスペックのノートは必要なかったのです。逆に 240Z は私がまさに求めていたものであり、よい買い物だったと思っていますし、譲っていただいた方には本当に感謝しています。

買っても用途がない。それは、その物にとっても、持ち主にとっても不幸なことだと思います。だから私は、結局最後まで ARMADA には入札しませんでした。残り 10 分となってその出品にはほかの入札者がついたようで、私は商品が大切にしてくれるユーザーに落札されることを祈りつつ、その ARMADA が表示されたウィンドウを閉じました。

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